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DISCOVERY

DISCOVER OKINAWA ART | 美術作家 齋 悠記
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DISCOVER OKINAWA ART | 美術作家 齋 悠記

沖縄のアーティストを訪ね歩き、さまざまな沖縄アートを探る「DISCOVERY」コーナー。

今回は、コザ(沖縄市)の国道330号線沿いにアトリエを構える美術作家、齋 悠記さんを訪ねる旅。

何を描こうとか、何色で描こうとか、決めて描き始めることはしない。
その日、手に取った絵の具から始めてみて、「あ、この青」、「あ、このグリーン」と、響いてくるものを見つけていく。

気持ちのいい場所へ散歩に出かける。
そこで捉えた、気持ちいいものを体の中に蓄積していく。

描いていると、響いてくる。「あ、あの場所」。そこから少しずつ絵の世界を広げていく。

絵の具が乾いたら重ねていく。
おや? と思ったらどんどん色を重ねていく。
紙を切って載せてコラージュすることだってある。

165センチのスクエアパネルに描かれたグリーンのアクリル画。
齋さんは「自分の中にグリーンが染みこんできているのかも」と見つめる。

タイトルは「てはうえあしはした」。
描いている途中のひらめきや、生活をしている中で思い浮かんだ言葉は、ひたすらメモする。その中から、ひとつひとつを探し出し、パズルのように組み合わせていく。
タイトルに選ぶのは、見てくれる人に対して説明的にならない、空間のある言葉。

半年かけて描き上げるものもあれば、2カ月で描き上げるものもある。
完成を決めるタイミングは、絵が「場」になっているか。
その空間の中で必要なものになっているか。

空間は、齋さんにとって大切なキーワード。
だから、パネルも自分で作る。

いつだったか、友達に「絵が角(かど)と闘っているみたいだね」と言われた。
思ってもみなかったので「おもしろい感覚だな」と、試しにパネルの角を丸く削ってみた。

とたんに、外と中の空間が溶け合った。

絵の中の空間と、外の空間が溶け合う狭間。
愛着の湧く、親しみの湧く、やわらかな丸み。

「てはうえあしはした」(2015年)©齋悠記

 

 

気軽に手にとってもらえるようにと、13センチの小さな作品も制作している。
「プッシュボタンみたい」という理由で、ボタンシリーズと名付けた。

ぺこんと押したくなる、愛らしいフォルムが、空間を優しく彩る。

「ボタンシリーズ」(2017~2018年)©齋悠記

 

|齋 悠記さんに聞きたい、10のこと|

1.アートを始めたきっかけ、これまでの軌跡

父親が美術館で学芸員の仕事をしていたので、小さいころからアートは身近にありました。学校が休みの日は、妹と一緒に父のいる美術館に歩いて出かけ、創作室で粘土をしたり、絵を描いたり。本格的に絵を学んでいたわけではなく、地元仙台の高校でようやく美術部に入り、そこで初めて油絵を描きました。

そんなころ、近所に奄美大島出身の方が営むカレー屋さんがあって、初めて島の伝統工芸について知ることに。藍染めの技法を継承する人たちのドキュメンタリーを見て、すごいなぁ! と。当時は仙台という土地の魅力を全然わかっていなくて、沖縄や京都、とにかくそういう文化が濃い土地に憧れていたんです。奄美大島は沖縄ではないですが、南方にこんな魅力的な場所があることを知ってからは南の島に住みたくて、卒業後は沖縄の県立芸術大学(以下「芸大」)へ進学を決めました。

仙台で一浪、二浪目は沖縄に住んで予備校通い。時間内に絵を描き上げなくてはいけないというテストが、どうも苦手で(笑)
那覇の樋川に住んでいたんですが、初めて住む沖縄は、なにもかもがカルチャーショックでした。晴れて合格した芸大では、美術工芸学部で絵画や素材研究などを学び、大学院に進んでからは、交換留学でイギリスの美術大学へ。イギリスは同じ島国ということもあったし、アイルランドのケルト文化や「ストーンヘンジ」など不思議な遺跡もあるし、前からすごく興味があったんです。

留学先では、ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で世界各国の工芸品を見たり、近くの展覧会を訪ねたり、ドイツやベルギー、ストックホルムへも行ったり。とにかく「自分が何を捉えられるか?」と必死で、いろいろ見て回りました。

そんな中、父が体調を崩し、祖母が亡くなり、家族が転換期を迎えたことで一時帰国することに。なんだか自分がどうしてここにいるんだろう?とわからなくなりました。家族のみんなは「またイギリスに戻って留学を続けなさい」と。おばあちゃんっ子だっただけにショックが大きかったし、今後のことがすごく不安だったけど、とにかく今できることをやろう! そう決意して、イギリスに戻りました。

結果的に、その約1年間の留学が大きかった。いざ沖縄に帰ってきたら、何もかもが違って見えたんです。こんなにも捉えるものが違うのかとびっくりしました。そのときに描いたのが「lyrics#okinawa」という全5枚のシリーズ。

この絵が今につながっている。大学院の修了制作にもなったこの作品は、私のすべての出発点となりました。

2影響を受けた人、作品は?

イギリスにいたとき「悠記がやりたいことに近いかも」と教えてもらった女流画家のアグネス・マーティン。淡い色で線を描くスタイルや美術に関して書いている文章に魅了されました。

画家の小林正人さんは、キャンバスを張りながら手で描いたり、とても自由な手法をされている方。いろいろな作風があるんですが、とりわけ衝撃を受けたのは90年代に描かれた作品。描かれた絵というより、すでに「もの」になっている。そんな絵のもとになるものを見せられた感覚でした。

ハワイの沖縄系移民の陶芸家、ToshikoTakaezu 高江洲敏子さん。心の輝き、ものごとの美しさ、そのもとになっているエッセンスが取り出されて、作品になっている。沖縄県立美術館に寄贈された作品を見る機会があったんですが、本当に素晴らしくて感動しました。

3これまでの自分の作品の中で1番思い入れのあるものは?

1の回答の最後でお話した「lyrics#okinawa」という作品です。

イギリスに行く前は、「自分ってなんだろう?」という悩みを常に抱えながら、そのとき得たものをなんとか手がかりにして描く毎日でした。でも沖縄へ戻ってきたら、目の前が拓けて、ばーんとそのまま出していけばいいんだと思えるようになった。

「lyrics」シリーズの制作は、自分が沖縄で捉えている光、感覚、肌に感じるもの、それをただただ素直に出す作業でした。とても思い入れのある作品です。タイトルを「lyrics」にしたのは、自分の絵は、言葉が持つ空間というか、「響く」という感覚に近いのかなという思いから。

このシリーズの中の1枚「lyrics okinawa#3こんこんとノック」は、北中城村の「PLOUGHMANS LUNCH BAKERY」というお店に飾っていただいています。

「lyrics okinawa#1 たましいの」(2006年)©齋悠記

 

4.沖縄に住み、沖縄でアート活動をしている理由は?

沖縄は、内地に対して政治的な問題でも客観的な視点を持てるし、生活に密着しているクリエイティビティがあって、アートをするにはすごくよい拠点だと思う。

私は、沖縄じゃないとだめ、というこだわりは持っていないけれど、沖縄に住んで、人とのご縁があって、自然とここまでつながってきたことで、「視点を持ち得た」と感じています。ここで得た視点を持っていれば、違う土地に住んでもそこから伝えられることがある。それはとても重要で、幸せなことだと思っています。

5.アーティストとしてのテーマは?

見た人が、その人の中に立ち戻れる場所、空間を持てるような。そういう作品を作れたらいいなと思っています。

6.インスピレーションの源は?

沖縄の自然。海や山に行ったり、ちょっとした散歩でも、自然の中にいると自分自身が立ち戻れる気がする。私は、描くたびに毎回「あれ? 描き方を忘れてしまった。どうやっていたっけ?」となるんです(笑)。いつもそこから始めている。その場で自分ができることに、とにかく向き合う。そうやって作品が生まれています。

7.自分の作風、スタイルを思いきって一言で!

色遊び。

8.沖縄アートについて考えること

沖縄は魅力にあふれている。これだけ素晴らしいものが集まっている島はなかなかない。そんな特異な場所です。知ればきっとほかの土地の人でも何か得られるような、「もと」になるものがたくさん存在している。アートだから伝えられることってある。アートを通じて、沖縄のことを世界にもっと知らせることができたらいいなと思います。

9.自分の作品を通じて出会った人、出合った場所において嬉しかったエピソードは?

私の絵を飾ってくださっている方が、毎日絵を目にして感じていることを、教えてくれることがあります。自分が絵を描くとき思っていたことが、ちゃんと相手にも伝わっている! それを知れたときは、とても嬉しい。その人の生活の中で絵が生きていることを実感できるって、本当に幸せなことです。

あとは、今のアトリエがガラス張りなので外から見えるんですけど、先日突然、年配の女性が通りすがりに声をかけてきて。「あなた、絵を描いているの? 私も絵を描いているのよ」って。その場で、私の絵を見て買ってくださったんです。

このアトリエで制作するようになって1年ほどですが、そういう話がフラットにできるって、コザはいろんなエネルギーが入り混ざっているおもしろい街だなぁと嬉しくなりました。

10.未来の目標、思い描いている夢は?

自分が生きて行く中で絵を描く、ものを作るというのは一体としていて、いろんな悲喜交々の中、生活の中、描き続けていくということで、あまり特別なことはないんです。そんな私の作品をたくさんの方に観てもらいたい、そしてアートは生活をもっと響かせるツールになるってことを体感してもらいたいです。

それから、私が生まれたニューヨークへ行ってみたいですね。1歳のうちに引っ越して以来、まったく行っていないので。父と母が生きていた場所で生活してみたい。そんな夢も思い描いている最中です。

 


齋 悠記 | YUHKI SAI |

美術作家。1978年1月、ニューヨーク生まれ。1歳で、宮城県仙台市へ移住。
2002年03月、「沖縄県立芸術大学美術工芸学部美術学科絵画専攻」卒業。2003年09月、イギリス「サリー美術大学」へ交換留学。2006年03月、「沖縄県立芸術大学大学院環境造形専攻絵画専修」修了。
主な展示、受賞歴は、2012年「トーキョーワンダーウォール2012」、2015年「VOCA展」、2017年「第46回沖縄県芸術文化祭 新人賞」、2018年「第47回沖縄県芸術文化祭」入選、2019年「第71回沖展」入選など。
2019年9月には、「第48回沖縄県芸術文化祭」にて「県知事賞」を受賞した。本展は、2019年11月16日より沖縄県立博物館・美術館にて開催される。沖縄市在住。

 

==INFORMATION==
アトリエを訪ねたい方、掲載作品のお問い合わせなどは、オフィシャルホームページ「Contact」からご連絡ください。

 

PHOTO/Choji Nakahodo
TEXT/Norie Okabe

 

 

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